ここでは武術初心者の方への簡単なアドバイスをしてみたいと思います。
但し、不特定多数の方がお読みする可能性もあり、余り詳しくお話出来ない事もあります。
その様な事柄に関しましては、書かない、もしや濁して述べてある箇所もあります事をご了承下さい。
又、ここでお話する事はあくまでも私の身体感覚や、個人的な経験を元にしていますので、
全ての人や場合に当てはまる物ではないと思いますし、無論絶対の事として押し付けるつもりも毛頭ありません。
参考程度にして頂ければ幸いです。
お読みになられた諸賢の、ご指導、ご鞭撻をお待ち致して居ります。
第一講
≪太極拳を使えるようになる為の四つの稽古≫
太極拳が使えるようになる為には、大別して次の四種の稽古が必要だと私は考えます。
1、「套路」
空手で云う処の“型”です。夫々の流派に夫々の套路があります。
これは太極拳なら太極拳の身体を作る為に必要です。
套路を練習せずに太極拳の技だけ使おうとしても難しいですし、
例え出来たとしてもそれは外形は太極拳でも中身は異なる物です。
正しく使う為には、その流派の身体にならなければなりません。
それが套路の役目と言って過言では有りません。
2、「推手」
太極拳の特徴である処の、
“相手の力に逆らわない”、“相手の力を利用する”事を身に付ける為に必要です。
3、「対練」
二人一組で練習する套路です。
これによって技を使う間合、角度、簡単なカケヒキなどの初歩的な部分を学びます。
4、「反応訓練」
相手の攻撃や動きに対応出来る様になる為の稽古です。
実際の相手は止まっている訳では有りません。様々な動きをする訳です。
例えば一口に“攻撃”と言っても、ざっと以下の様な事が考えられます。
手で打って来るのか、蹴って来るのか、掴みかかって来るのか。
右で来るのか、左で来るのか。
まっすぐに打って来るのか、曲線で打って来るのか、上から来るのか、下から来るのか。
上段へ来るのか、中段に来るのか、下段に来るのか。
フェイントなのか、本命なのか。
掴んで打って来るのか。・・・等々。
これらを見切り、反応できなければ、実際に使うことは無理なのです。
ですが、これらは“慣れ”です。
相手を立てて、繰り返し練習すれば誰でも自然と出来る様になります。
しかし全くの初心者の方が、いきなり
“突きも蹴りも掴みも投げも、なんでも有り”で稽古するのは、余りお勧め出来ません。
例えば、最初は右手なら右手だけ。打つのは顔面のみで、ストレートだけ。
という様に攻撃を限定して、それをさばく練習から入り、
慣れて来たら、フックも入れてみる、という様に徐々に限定を減らして行けば良いのです。
焦らずにやれば、突きから入って蹴りをさばける様になるまで、そんなに時間は掛からない筈です。
但し、どちらかが経験者で有る方が、練習の効果が高く、怪我も少ないのは、言うまでも有りません。
怖がる必要は有りません。やってみると思った以上に楽しい筈です。
楽しんでやる。位のつもりで取り組む方が上達は早いです。
又、推手の発展形として稽古する事も出来ます。
そういう方法もあります。ある程度の指導者なら、教えてくれる筈です。
頑張って下さいねっ!
(2003,11,19)
第二講
≪細かい所は大事な所≫
武術をやっていると、時にとても細かい注意を受けますよね。
“きっと大事な事なんだろーなー”とは思っても、その注意通りにやるのは少々キツイ。
だから注意された点を忘れた事にしちゃったりして。(笑)
このHPを読んでいる方の中にも、形意拳を学んで居られる人がいると思います。
練習してると言われますよね?
足位置や、膝、歩の進め方、手の位置、出し方、重心、タイミング、等々。
そういった注意点を無視して動いてる人も居ますが(いや、気持ちは解ります。
だって注意された通りにやるとシンドイですものね)、
これは無視しないで、ちゃんとやった方が良いです。
それは無駄なく力を乗せる為のコツの集まりなのだから。
なあに、じき慣れますから。
(ごめんなさい。かなり濁して書いております。)
(2003,11,21)
第三講
≪“力を抜く”のはなんの為?≫
良く「無駄な力を抜け」と言われますよね。それは何故か、についてお話したいと思います。
強い力を出す為には、全身を一致させる事が必要です。
では全身を一致させる為には?
これは頭の天辺から足の先まで、全身が同時に動いて同時に止まる事が必要です。
「全身の力を使う為には足から腰、そして肩、腕へと伝える」って言いますよね。
これは本当です。
ですがそれはバラバラに、順を追って動く事ではありません。
この全身の力は一瞬で伝わるものです。
どこかが早かったり、遅かったりしてはうまく行きません。
身体全部を一遍で動かし、一遍に止まるのです。
精神も身体も、全てを一遍に合わせます。これが強い力を出すコツです。
心も身体も、どこも休んでいる所がないようにするのです。
・・・例えばここで肩や胸が力んだとします。
すると、力んだ箇所から先が、一瞬ですが動作が遅れるのです。
これでは全身は合わないのです。・・・ま、それでも人は倒れますけどね(笑)。
最初から威力を出そうとせず、先ずは力を抜いて全身を一致させる事から始めましょう。
焦る事はありません。大丈夫、必ず強い威力が出せるようになります。
(2003,11,21)
第四講
≪最強の武道ってあるの?≫
良く最強論を耳にしますが、本当に“最強の流派”というものが有るのでしょうか?
結論から言いますと、そんなものは有りません。
もし、そんなものが有るのならば、皆、それを学ぶはずです。
世に沢山の武道がありますが、それらは各々、その目的としている所が違います。
その“目的”によって、スタイルが異なってくるのです。
例えば、
①試合に勝つ事を目的としている。
②打撃技術に勝つ事を目的としている。
③相手が武器を持っていたり、多人数である場合も想定している。
と云う様に、分ける事が出来ます。
①は夫々の試合に勝つ事が目的なのですから、ルールに乗っ取って勝つ方法を身に付けます。
これに含まれるものとして、キックボクシングやボクシング、柔道などが一般的でしょうか。
剣道もこの範疇に含めて良いかも知れません。
掴みや投げが禁止されていたり、急所攻撃が禁止されていたり、倒れた相手に対する攻撃が禁止、
反対に突いたり蹴ったりは禁止、というルールの中で競い合います。
なので一般的に、打撃の専門家は投げや寝技に弱かったりします。
即ち、自分の知らない技術に対応出来ない場合があるという事です。
②はブラジリアン柔術に代表されます。
元々、突いたり蹴ったりの技術に対抗する為に生まれたと言っても良いかも知れません。
突き蹴りを防ぐ為に近い間合で闘うのです。即ち寝技に持ち込む事が多いです。
ですからこのスタイルをもつ武道に、打撃の専門家が勝つ事は難しいのです。
ですが、このスタイルは組み付いて闘うという方法を採る以上、相手が二人以上いる場合には、かなり厳しい展開となります。
素手の素人二人に、このスタイルの専門家が倒されてしまう場合があります。
打撃技術の専門家であれば、素手の素人二人に倒されてしまうと言う事は、まず有りません。
③は古いタイプの武術です。
突き蹴りや投げ、関節技、武器術を総合的に学ぶので、護身術として役立て易いです。
ですが、ルールを限定された状態では、その力を発揮しにくいのです。
これには古い空手や古流柔術、合気道、中国武術などが挙げられます。
以上、見て参りました様に、夫々一長一短があり、どれがどれより優れているとは言えない訳です。
結局は“どれが一番優れているか”、ではなく、
“どのスタイルが一番好きか”、で選ぶ問題になるのです。
好きなものを夢中でやる。これが上達への近道です。
(2003,11,21)
第五講
≪見た目に臆すべからず≫
相手の身体の大きさ、顔の怖さ、迫力というものは、彼の“強さ”とは直接的な関係の無いものです。
(ただ、それらの要素は、こちらが気後れすると“大きいもの”になったりします。)
身体が大きく、見た目も怖く、迫力も有る相手が、
いざ実際にやってみると、蹴り一発でひっくり返ってしまう事も有るのです。
やってみるまで解らないものなのです。
(2003,11,22)
第六講
≪武器は学んだ方が良い≫
武器術からは非常に多くの事を学べます。
武器その物に破壊力があるから、直撃すれば女性でも男性を倒せたりします。
相手の動きの隙間に一撃すれば事足りるんですから。
それだけに、武器を学ぶ事で、身体の移動、相手に付き合わない事、など沢山の大切な事に気が付くものです。
武器は闘い方を学ぶのに、大変役に立ちます。
それは当然、素手の技術にも活きてくるものです。
武器術は機会を見つけて取り組んでみて下さい。
(2003,11,22)
第七講
≪負ける事は上達の活力≫
武術を始めて1~2年の初心者なら兎も角、真面目に数年稽古する人が
素人にストリートファイトで負けるのは、始めるタイミングを誤るから。
道場ではどんなにハードな組手だって、構えて“準備オッケー”で始まるでしょ。
だけどストリートファイトってのは、相手に声を掛けられて「はい?」って顔を近付けるとイキナリ殴られたりする。
これでやられる事が結構多いんですね。
相手が三人もいたら、あっという間に袋叩き。
だからこのタイミングを誤らない事。
逆の言い方をすれば、そういう相手を道場に連れて来て、「よし、始め」でやると、
素人は稽古してる人には先ず勝てないのです。
それから、自分の習ってる技に固執しない事。
自然な反応に任せて動く事。
(自然な反応に任せられないって方はまだ初心者です。そうなる迄練習してみてね。)
習ってる動きにこだわると自由な反応や動きが束縛されて、不自由になります。
それでやられてしまうのです。
例として今回は、私が中学の頃の失敗談をお話ししましょう。
相手は長身で動きが速い。しかも私が武術やってるのを知ってるから、
ナカナカこっちの間合に入って来ない。相手も怖いのね。
だからパッと打つとサッと退く。
当時は闘い方を知らなかったので、その方法で段々劣勢に追い込まれた。
焦った私は、“基本に忠実であれば勝てる筈だ”と思い、習ってる動きで闘おうとした。
・・・だけどそれって完全なテレフォンパンチに、腰の低い幅広のスタンス。
動きの速い相手に対抗できる訳が無い。(笑)
顔面バチバチ当てられて出血。
今なら、接触した所から一気に間合詰めちゃうけど、当時はそんな技術持って無かったからね。
自分を型に嵌めては動く事も出来ない。
だから、そんな事にこだわっちゃダメです。
・・・でもね、負けるのは良い事なんですよ。
一番最初で運良く勝っちゃった人より、負けて悔しい思いをした人の方が、将来伸びるものです。
色々な事、考えるからね。
実際、多くの事を学べるのは、勝った事より、負けた事から。
武術に限らず、どんな事でもそうだと思います。
それをバネにして、頑張って。
いや、実際ね、実力のある人って例外無く負けた経験を持ってるものですよ。
機会が有ったら、自分の先生に聞いてみて。
きっと負けた話を楽しそうに話してくれるから。
(2003,11,23)
第八講
≪接触点を上手に使う≫
相手と手や足が接触したら、その“接触した所”を上手く使う事で、
随分楽に戦う事が出来る様になります。
“接触点を使う”と言われても、初心者には何の事やら解らないですよね。
そしてこの方法には、簡単に出来るものから、ある程度修練を積まないと出来ないものまで、
様々な方法が有ります。
ここでは一番簡単な方法を説明しましょう。
相手に向かって打ち出した手が、ガードされてしまった時、その手を只引っ込めてはダメです。
それは勿体無いです。
自分の攻撃が相手に受けられた、又は相手の攻撃を自分が受けた、って時は
相手の手と自分の手とが一瞬接触したって事ですよね。
その接触した時に、相手の手を掴むだけでかなり有利に事を運ぶ事が出来ます。
これに歩法も従わせると、より効果的です。
(勿論、掴む事をルールで禁止されてる場合は使えませんけど。)
これが出来る様になる為には、手を棒の様に使ってはダメです。
ある程度柔らかく使う事が必要です。
そしてこれを手対手だけに限定せず、手と足、手と頭や肩、など、どんな所にでも使うのです。
慣れると足と足が接触した所も有利に使う事が出来ます。
(2003,11,24)
第九講
≪左手をもっと使おう≫
初心者の右利きの人は、右手ばかりを使い易い傾向が有ります。
そこを一寸工夫して、右手で掴んで左手で打ってみると結構当たり易いものです。
この最も単純な例は、相手の手を右手で掴んで引きながら左手で打つものです。
左右の手、多くの組合せが有ります。
又、相手のレベルにもよりますが(って、どんな技術でもそうですが)、
互いにオーソドックス(左手前)に構えている場合、
相手の構えた左右の手の間を縫って、自分の左を打ち込むと案外当たり易いものです。
ただ、これには一寸したコツがあります。
(2003,11,24)
第十講
≪痛いのは当たり前≫
初心者にとって相手の手足と自分の手足がぶつかるのは苦行ですよね。
相手の攻撃を受けると、受けた手足が痛い。
これが原因で“武術なんて辞めようかな”って思う人も居る。
でもそこを頑張って越えてみて下さい。
取り組み方にもよるけど、大体半年から一年も経つと随分痛くなくなるから。
それだけ腕や足も固くしっかりしてきたんだし、受け方も覚えて来たという事。
相手の力を受け止めるんだもの、痛くない訳がない。これが現実。
稀に「私の流儀は相手の力を流すから、腕足を鍛えなくても良い」と言う人も居るけど、
相手の攻撃を流すなんて事は、初心者には先ず無理。
初心者は相手の攻撃に自分の手足をぶつけて受け止めるので精一杯な筈。
だからその痛みは必ず通らなくちゃならない。
そういう稽古の中で、自然と腕も足も鍛えられて来る。
そして自然と、痛くない受け方も流し方も覚える。
なあに、黒血だらけで腕がぷよぷよになっても数日で治るから。(笑)
いやホントに。
どうしても耐えられない人は、武術でなく他のスポーツを探した方が良いかも知れません。
ある程度は腕足が鍛えられてなければ、相手の攻撃を安心して流す事も出来ないものです。
第一、相手のレベルが高かったら、流すなんて一寸難しい場合が有ります。
それにイキナリ肩を掴まれて殴られたら、流す事は難しい。
(掴まれた接触点を利用して相手を崩す、だなんて名人の台詞。)
時には力をまともに受けなければならない事も有って当たり前。
少なくとも武術を学んでいる者が、普通の人と同じような身体じゃいけないでしょ。
腕も足も鍛えられていれば鍛えられているほど良い。
どんなに鍛えられていても、それは邪魔にならない。
確かにどんなに鍛えても刃物で切られたら、切れる。人の身体は鉄にはならない。
だが鍛えていない人はもっと脆い。
拳も同じ。
良く「手を鍛えるのは完璧な発剄が打てないからで、十全な発剄が出来れば拳を鍛える必要なんてない」と言う。
これはご尤も。全くその通り。
じゃ、その“十全な発剄”ってのを打てる人間は世間に何人居ます? あなたは出来る?
それに向かって進む事は勿論大事だけど、今出来る事も少し考えた方が良い。
もしかするとそんな事、一生出来ない可能性だって有るんですから。
誰にでも出来る事じゃないから、追求するんですから。
同じ力だって、木槌より金槌で叩いた方が効果が有るのは当たり前。
拳だって必要最低限、鍛えておいた方が良い。
それも相手に当たる可能性の有る箇所は全て。
相手の手や頭に拳が当たって痛い様じゃ実用など到底無理。
逆にある程度掌を鍛えて、相手に向かって振り下ろしてご覧なさい。
問答無用で効くから。
但し、無茶な鍛え方はしない事。
そして手を当てた後は少なくともマッサージはする事。手を壊してしまっては何にもならない。
大体三ヶ月続けると、拳がしっかりしてくる。
その頃になったら友達と拳同士をぶつけてみるといい。
喧嘩指輪なんて玩具に思えるから。
あ、蛇足だけど“柔らかく使う”って事と、今した話は、別の話ではないんですよ。
(2003,11,24)